ヤマトの荷量抑制と運賃値上げをめぐって
労働密度の問題にこそ踏み込もう


 宅配便最大手ヤマトホールディングスの二〇一七年三月期決算によれば、営業利益は前年比四九・一%減の三四八億円である。こんなに大きく利益を減らしたのには、ドライバーなど約四万七〇〇〇人に過去二年間の未払い残業代およそ一九〇億円を支払うことなどが響いた。同じ日、個人向けの基本運賃を一四〇~一八〇円値上げすることも発表。平均一五%程度の値上げであり、九月中にも実施される。ただ、個人が出す宅配は総量の一割程度で、残り五割は法人(主に企業)間、四割が法人から個人への通販などだ。これら法人向け運賃は荷物量に応じて割り引かれてきた。大口であるほど割引は大きい。しかし最近の報道では、ヤマトは法人に対しても契約打ち切りを一方的に通告するなど強気に値上げ交渉に臨んでいるとのことである。それを通じて〇・八億個の荷物を減らす目標であるという。現場のあまりの疲弊を背にヤマトの労組が荷量抑制を要求したことは、話題に乏しかった今年の春闘にあって耳目を集めた。
 経営側としては、これを奇貨ともして一九九〇年以来の値上げに打って出、このかんのダンピング競争によって低下した利益率の回復を図ろうというのである。それが報道されているように労働条件の改善にまでつながるかは、かかって労働者のこれからの闘い如何だ。

仁義なき(?)宅配

 クロネコヤマトが二〇一六年度に運んだ宅配数一八・七億個は業界の総数三八・七億個の四八・三%にあたる。シェア二位の佐川急便は一二・二億個で三一・五%。この二社で八割を占める。第三勢力ゆうパックは、前年比九・一%増やして六・三億個まで急伸したがシェアはまだ一六・三%。ヤマトが扱う荷物がここまで膨れ上がったのは、利幅が薄いため佐川が二〇一三年に契約を打ち切ったアマゾンの荷物が流れ込んだからだとはよく言われる。その二〇一三年度、ヤマトの扱い物数一六・六億個は前年度一四・八億個よりたしかに一・八億個も増えた。しかしこのときは人員も非正規雇用中心に約一万六〇〇〇人ふやしている(現在の総数は正規・非正規あわせて約二〇万人)。クール便の温度管理が不備だったのが発覚したこともあって翌一四年度は〇・四億個減の一六・二億個だった。一五年秋に刊行されたルポ『仁義なき宅配』(横田増生、小学館、本紙二〇一五年十一月一日発行号に書評記事掲載)の著者がヤマトや佐川の労働現場に潜入取材を行なったのは二〇一四年初夏から秋にかけてだから、ちょうど物数がやや頭打ちになったときである。にもかかわらず同書が報告する宅配現場の労働状況は過酷だ。配送車のドライバーの労働時間管理は当時ヤマトでは端末機が作動している間だったが、その前後一時間ずつは積込みや片付け・伝票整理があるし、一時間の昼食休憩はほとんどとれず運転しながらバナナなんか食べて済ます。合わせて連日三時間のサービス残業が常態だった(時間管理は今春闘で出退勤時間に改められたとのこと)。 

荷量抑制だけでなく

 いっぽう直近一六年度の一八・七億個というのは前年の一七・三億個から一・四億個、率にして七・九%も増なのに人員は二%しか増やしていない。配送車を下請け委託すると荷物一個ごとに一三〇円前後の委託料がかかる。委託労働者は車両代とかガソリン代は自分持ちだから一日一四~五時間働いて一五〇個くらい配達する熟練者でも時給換算すると一〇〇〇円に届かない。ヤマトは委託より直接雇用でこれまでやってきたこと自体は非難されることではないけれど、荷量が増えても自社ドライバーの負荷が増すだけで委託料加算という形では会社の腹は痛まなかった。
 それが今や自社ドライバーだけではまかなえなくなって三月期決算には外部委託費二〇億円の支出も計上された。政府の「働き方改革」がそうであるように、従来の搾り取り方では行き着くところまで行ったからというのがヤマト版「改革」である。労働運動にとって必要なのは個別企業ではなく働く者全体の視点だ。
 荷量抑制だけでは委託業者が切り捨てられるだけだろう。増員・賃上げに加えて労働密度を下げることと委託で働く者の待遇改善が目指されなくてはならない。同業他社たとえば日本郵便にあってもそうだ。産業別統一闘争への道を切り開こう。【土田宏樹】

(『思想運動』1001号 2017年5月15日号)